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緒言 分子研リポート2002 | 分子科学研究所

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将来計画及び運営方針 271 分子科学研究所将来計画(案)(法人第一期6年を考えて)

分子科学研究所が創設30年を迎える2004年に,大学共同利用機関は国立大学と同様に法人化されることになる。分 子科学研究所を含めた岡崎国立共同研究機構の3研究所は,核融合科学研究所および国立天文台と連携して「自然科 学研究機構法人」を構成し,この段階で,岡崎国立共同研究機構は解消される。自然科学研究機構は,自然科学の分 野の異なる5研究所が,互いの連携を保持することによって,科学的な視野を広げ,ますます各分野の先端的研究拠 点,大学共同利用機関として発展することのみならず,機構内外の学術研究機関と協力して,今後の我が国の学術研 究連携を自らの手で作り上げる責任を持つことを目的としている。機構が発足する2004年以降は,機構の研究所ある いは研究者が中核となって,機構内外のさまざまな学術研究連携の試みが,研究者を主体とした提案として議論され, 実施される。科学技術のめざましい発展により,世界的にも,科学技術を利用した豊かな社会作りを目指す動きが顕 著である。その際,技術の応用(テクノロジー指向)を主眼とする政策が取られがちであるが,学術研究(S cience and A rt)が21世紀の物質および心の豊かさを支える重要な役割をもつことを勘案すると,自然科学研究機構が,学術研究 を積極的に展開する機構としてなすべき役割と責務は大きなものがある。法人化が,行政の効率化を図るという目的 であるという観点から,法人化に対し受け身の立場になりがちである。しかし,21世紀の世界が,物質社会としての 豊かさだけでは成り立ちえない現状を考えるならば,先端研究を担う研究者が,新しい研究分野を開拓し,新しい科 学の概念を創成する努力をすることが,学術研究を担う研究者としての責務である。

分子を単位とした物質科学は,化学,物理のみならず広汎な分野の基盤として,今後ますますその重要度は高まり, 広義の物質科学としての分子科学の研究をどのように展開するかが,分子科学を取り巻くさまざまな学問分野に大き く影響する。この意味から,分子科学研究所が,高い理念と責任感を持って今後の研究計画を設計することが求めら れている。ここ数年来,分子科学研究所は,物質創製,光分子科学および化学反応動力学を柱とした広義の物質科学 研究を行う共同利用研究機関であることを謳ってきた。法人化を控えた現在,今後の展望をまじえて,具体的な将来 計画を提案する。

(1)国際研究推進

分子科学研究のターゲットが,ナノ物質科学に向かっている現況であり,分子科学研究所はそのような分野を強力 に展開するとともに,次世代の分子科学研究を切り開く責務を担っている。ポストナノサイエンスと表現される次世 代の研究では,単に物質科学の静的な物性を研究するのではなく,一分子素子での電気伝導などに象徴されるナノ領 域でのダイナミックな量子効果,極短時間での変化をも含む研究が展開されるべきである。加えて,少数多体系特有 のゆらぎなどの概念をも取り入れなければならない。このような例にも象徴されるように,広義の物質科学としての 分子科学は,物質創製,反応動力学,光科学などが融合し,さらに生命科学,情報科学などを取り込んだ分野へと変 化する部分を多く含むものである。また,このような異分野の協力体制とともに,コンピューターネットワークなど の進歩により,科学研究に,国籍という障壁はなくなる一方である。このことを考慮すると,これからの広義の物質 科学の拠点としての分子科学研究所は,国内のみならず世界諸外国との連携拠点となるべきである。このために,わ れわれは次世代の学術研究を目指すアジアに視野を広げた国際共同研究ネットワークを提唱する。

5.将来計画及び運営方針

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272 将来計画及び運営方針

(2)計算分子科学研究系の新設

近年,従来の計算とは比較にならないような巨大な科学技術計算に基づいたサイエンスの新しい分野が世界的に芽 生えつつあり,計算科学の新たな挑戦的領域を形成しつつある。このような新しい流れに対して将来を見通したとき, 最も重要な基礎学術分野のひとつとなるナノサイエンス分野において我が国が遅れをとることは絶対に許されない。こ こにおいて,ナノサイエンスは言うに及ばずその基盤となる分子科学分野において,巨大計算に基づいたシミュレー ション研究に迅速かつ持続的に取り組むべき研究組織を整備し,世界の潮流に先鞭をつけるべく対応して行くことが 緊急に求められている。

その中で,ナノ物質系に対して新たに研究を展開して行くためには,計算分子科学の根幹を成す分子動力学法や電 子状態理論をさらに高度化していくことが重要な課題となる。このような研究においては,ナノ物質系を記述する新 たな方法論開発が必須となるのに加えて,巨大計算を目的とした超並列演算やグリッド環境を利用した高度な計算技 術が要求され,解析的方法や小規模計算に基づいた従来の理論研究とは全く異なった研究分野を形成している。米国 における B lue Gene 計画や,特にわが国 NA R E GI(超高速コンピュータ網形成)プロジェクトはこの方向に沿ったもの である。

以上のことから,中期目標,中期計画に示しているように,巨大計算に基づいた計算分子科学に対する我が国の中 核的研究推進体制を分子科学研究所に確立する。このため,計算機運用を中心とした計算科学研究センターの従来の 機能は維持しながら,巨大計算による分子科学の新機軸の展開を研究の柱とした計算分子科学研究系を新設し,平成 14年度設置の分子スケールナノサイエンスセンターとも連携をとりながら,既設の理論研究系(理論分子科学研究系

と改名する)との協力の下に,理論とシミュレーションの強力な研究遂行体制を組織する。

(3)レーザー分子科学研究センターの発足

21世紀は光の時代と考えられている。その中でレーザーは中心的役割を果たすツールである。分子科学研究所は発 足以来レーザーを用いた分子科学研究の世界的な拠点としての役割を果たしてきた。法人化を機会として,本研究所 にある分子制御レーザー開発研究センターを改組し,電子構造研究系,分子構造研究系などからの参加により,21世 紀の分子科学のレーザー科学への貢献を果たす組織として,本組織内外の協力体制を確立し,新たなレーザー分子科 学分野を開拓する。

(4)法人化にともなう新規研究事業

法人化にともない,分子科学研究所の研究グループが互いに連携しつつ,分子科学研究の先端を遂行するために,以 下の特別推進テーマを法人第一期6年間で実施する。

1. 分子素子開発のための新規ナノ分子システムの開発と構造・機能 2. 分子システムの動的素過程の先端光計測と光制御

3. 環境調和型次世代エネルギー・物質変換プロセスの創出 4. 機能性分子凝集系の設計・開発とその物性

テーマ1は,分子科学研究所が創立以来取り組んできた分子エレクトロニクスの構築を目指したものであり,ナノ サイエンスセンターを中心とした研究協力体制の下で遂行される。

テーマ2は,光科学と化学反応動力学を柱とする研究であり,現在の極端紫外光実験施設および分子制御レーザー 開発研究センターの装置群を使った共同研究体制で行われる。世界に類を見ない分子科学固有の極端紫外光施設,高

(3)

将来計画及び運営方針 273 性能の各種レーザー,分子線などを用い,理論系との協力体制によって,分子構造,電子構造といった静的局面のみ ならず,動的局面をも明らかにし,化学反応さらには,分子素子開発など,分子科学全体に係わる重要な研究事項の 基礎を構築する。

テーマ3は,分子スケールナノサイエンスセンター,錯体化学実験施設の装置群を使った共同研究であり,統合バ イオサイエンスセンターとも連携しつつ,ソフトマテリアルとしての分子,分子集合体を,溶液を含む系のなかで制 御し,環境科学,ナノバイオロジーなどとの境界領域を超えた新規な化学を発展させようとするものである。

テーマ4は,分子集合体の物性を,1分子レベルで制御しつつ,新規な物性をもつマクロな物質を作りあげる,井 口名誉教授以来の分子固体化学の中心テーマであり,本研究所が今後もその先端的研究を開発する責務をもつもので, 分子スケールナノサイエンスセンターと協力しつつ展開を図るプロジェクトである。

(5)法人化に伴う施設整備

法人として,「労働安全衛生法」が適用される。さまざまな安全衛生面をより確保する立場から,建物および安全衛 生設備に配慮が必要である。具体的にはB地区の実験棟 8,800 m

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に耐震補強整備を行う。B,E地区の研究棟に不法 侵入防止,安全衛生対策などの抜本的な設備改善を行う。これらは,日本化学会が,重要な施策として国立大学協会 に提言している事項でもあり,今後の化学研究を行うに必須なものとして,法人化以前に対策を講じることが求めら れている。

(6)組織再編成とB,E地区への展開

分子科学研究所は,物質創製,光分子科学および化学反応ダイナミックスを3つの研究の柱としている。この観点 から研究系を再編成することが必要であり,研究総主幹の新設を含め,次世代の分子科学研究を見据えた組織編成を, 法人化に伴って遂行する。

E地区は主として分子科学の新領域開拓における分野融合研究,特に生命分子科学,ナノサイエンスを含む物質科 学の先端開発を担う。分子スケールナノサイエンスセンターの分子素子およびナノ触媒部門はE地区に設置し,統合 バイオサイエンスセンターとの連携の下に研究を発展させる。分子スケールナノサイエンスセンターのより高度な発 展をめざすための研究棟の充実が望まれる。高磁場核磁気共鳴装置など先端的分光・分析装置の全国共同利用による 先端的分子科学研究を推進する。一方,分子スケールナノサイエンスセンターの光計測部門は,B地区において光科 学および化学反応ダイナミックス分野との連携を保ちつつレーザーおよび放射光を用い,ポストナノサイエンスの新 分野開拓へ挑戦する。また同時に,すでに教授が配置されることが決定されている極端紫外光実験施設とともに,光 科学および化学反応ダイナミックスと深く関わりあい,さらにE地区の物質創製グループとの協力関係をもつ。

(7)放射光分子科学研究の推進

極端紫外光実験施設は,平成14年度に高度化が実施され,分子科学を中心にした放射光科学の世界的な拠点として 国際規模での研究が推進される。このような状況で,新たに2研究テーマを増加させ,運転時間を延長し,先導的な 放射光分子科学研究と汎用的な基礎物性評価研究の両面で成果をあげることが必要である。加速器をベースとした光 源開発研究も光分子科学の今後の展開にとって重要である。法人化に際しては極端紫外光研究施設と名称変更し,研 究面をより重視した組織に再編する。

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274 将来計画及び運営方針

(8)運営体制の補強

法人化後の機構組織は,現在の岡崎機構の組織と違って,東京地区に置かれ,また,機構長と理事を中心としたも のになる。それに伴い,機構の運営に関わるという重要な役目が所長に加わるため,現在,研究面で分子科学研究所 を主導していくという所長の役目を研究所側で補う必要がある。そのため,研究所の教授が併任するポストとして研 究総主幹を設置し,今後も分子科学研究所における研究活動を実り多いものにしていく。

(9)その他

分子科学研究所は流動部門という独自な共同利用研究システムを活用し,国立大学等の教官との連携を図り,成果 をあげてきた。法人化にともない,人事交流の重要性が増す方向にある現況において,本研究所の流動研究制度は,研 究経費の配慮まで含め,前向きな方向で推進されるべきである。

統合バイオサイエンスセンターが岡崎の3研究所の共通研究施設として発足し3年目を迎える。本年度は分子科学 研究所の物質創製に関連する部門がE地区に移り,統合バイオサイエンスセンターとの協力体制が分子科学研究所と して益々重要なものとなる。

参照

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